全ての学ぶ人へ―学び方を学ぶ講義『Learning How to Learn』
Courseraで、カリフォルニア大学サンディエゴ校のDr. Barbara OakleyとDr. Terrance Sejnowskiによる『Learning How to Learn』という、「学び方を学ぶ」コースを受講し、昨日無事修了することができました。
Courseraの中でも特に人気の高いコースらしいのですが、もっと早く受けていればよかったと思えるほどの、理論的かつ実践的で素晴らしいコースでした。その中から内容について一部を紹介します。
- FocusedとDiffuseという2つのモード
- メモリー(記憶)
- チャンク
- 実は効果的でない勉強法
- 引き伸ばし
- 勉強以外で効果的なこと
- テスト対策
- その他
- MOOC入門としてお勧め
- 実践してみようと思ったこと
- 最後に
FocusedとDiffuseという2つのモード
物事を考る時には、既知の領域にあたる時に細かく物事を分解しステップバイステップで考えるFocused(集中)モードと、未知の領域にあたる時にもっと広く物事を考えるDiffuse(拡散)モードという、2つのモードがあるそうです。懐中電灯で例えるなら光を絞った時がFocused、光を開いた時がDiffuseモードにあたります。これらのモードは同時に入ることはできないため、対象や場面によって使い分けをすることが重要になります。
このモードの使い分けを実践していた偉人のエピソードとして、サルバドール・ダリの話があります。ダリは構想の際、椅子に座り、手には鍵を持ってうとうととしながらDiffuseモードで考えを巡らせました。やがて眠りに落ちると鍵が落とされ大きな音が鳴り響きます。それを機に一気にFocusedモードに入り、それまで巡らせていた案を練り上げていたそうです。同様のことをトーマス・エジソンも、鍵ではなくボールベアリングを用いてやっていたそうです。
メモリー(記憶)
ワーキングメモリーは同時に4つほどの情報しか格納できないことが分かっているそうです。そのため上手くワーキングメモリーと長期メモリーを使い分けることが大切になります。ワーキングメモリーから長期記憶に情報を移すためには練習と繰り返しが必要で、だんだん間隔を開けて練習する間隔反復という手法が有効とのことです。また、1日に詰め込むより何日かに分けて覚えたほうが長期記憶に残りやすいそうです。
脳は視覚や空間を記憶することにおいて能力を発揮するそうです。そのため、例えばf=maという式を覚える際、fがflying、mがmuleとして飛んでいるラバを想像すると覚えやすいそうです。この時、匂いや音まで想像するとさらに効果的だそうです。また、記憶力チャンピオンなども使う、「記憶の宮殿」というテクニックも有効です。これらのテクニックを使うことで、記憶に残りやすくなるだけでなく、創造力も鍛えることができるとのことです。
その他にも、思い出したりミニテストをすることで効果的に記憶に定着させることができるそうです。
チャンク
チャンクとはある物事に関連するひとつのまとまりです。ギターで歌を覚えるという例でいうと、1節1節をチャンクとして覚え、それらを繋げて曲全体を覚えるというイメージです。1つ1つのチャンクを作らなければ、全体像を描くことはできません。これらのチャンクを構築するには、集中した注力、理解、練習が必要となります。チャンクを構築することで、例えば脳にタコが住んでいるとすると、そのタコが触手を伸ばして関連する情報を集めることができるようになります。また、チャンクは、物理のチャンクがビジネスのチャンクに結びついたりというように、一見関係ないような他のチャンクと結びつくことができます。
実は効果的でない勉強法
実は効果的でない勉強法として以下があるそうです:
- 再読→間隔を開けて読まなければ効果はあまりないそうです。
- 答えを見る→本当は身についていないのに理解したつもりになりがちです。
- 線を引く→1段落に1つほどに抑えるようにした方がいいそうです。
- 概念地図→関連が頭の中で固められていない段階で描いても効果が少ないそうです。
引き伸ばし
学習の際の障害として、やるべきことをあとに回してしまう「引き伸ばし」があります。意志の力でどうにかしてしまおうとしてしまいがちですが、意志力は引き寄せるのが難しいため、絶対に必要な場合以外、引き伸ばしを避けるために使うべきではないとのことです。そこで大事になってくるのが習慣です。
習慣は以下の4つの要素で成り立っています:
- Cue(きっかけ)
- Routine(決まりごと)
- Reward(報酬)
- Belief(確信)
このうち習慣を変えるためにはCueに対する反応を変えることが最も大事です。そこに対してだけ意志力を使います。あとはRoutineを変えるため携帯電話の通知をオフにしたり、Rewardを用意し、Beliefを変えるためにいい習慣を持つコミュニティに参加したりするといいとのことです。
そして、勉強を始める際のコツとして、成果(product)ではなく過程(process)に目を向けるといいそうです。例えば「宿題を終わらせる」ではなく「25分勉強する」といった具合です。ここで25分の作業と5分の休憩を繰り返す、ポモドーロ・テクニックという手法が有効となります。
また、タスクを作ることも引き伸ばしに対して効果的だそうです。具体的なやり方としては、まず1週間ごとに鍵となるタスクのリストを作ります。そして寝る前に次の日に達成できそうなTo Doリストを作ります。寝る前に作ることで取りかかりやすくなります。この時、終了時間を決めることが作業時間を決めることぐらい重要だそうです。終了時間を決めなければダラダラやってしまいがちになるからです。また、"Eat your frogs first in the morning."という言葉があるそうですが、最も重要で嫌なタスクから取りかかることがよいそうです。
勉強以外で効果的なこと
まず睡眠が重要だそうです。実は起きているだけで脳は毒性物質を作り出しており、眠ることでこれらの物質を排出できるからです。また、覚えたいことを夢に見たいと思うことで夢でそのことを見る可能性が上がり、記憶の形成に役立てることができるそうです。
次に運動です。神経の生存を助けてくれる他、運動している間にDiffuseモードに入ることができます。Dr. Terrance Sejnowskiはジョギングの際、思いついたことを忘れないようメモを持ち歩くそうです。
テスト対策
簡単なものから解いていく人が多いですが、まず全体に目を通して、難問から解き始めることを勧めています。そうすることで難問で詰まってしまった場合に簡単な問題に移ることで難問に対してDiffuseモードに入ることができるからだそうです。練習が必要なので、まずは宿題で試してみることを推奨しています。
テストに怖気づいてしまった時は、テストによって「恐くなってしまった」と思うより「わくわくした」と思ったほうがパフォーマンスがよくなるそうです。また、腹式呼吸の深呼吸をすることで落ち着きを取り戻すこともできるとのことです。
その他
他にも電気の流れを水の流れとして考えるといった、例えやメタファーの重要性に言及されており、実際にコース自体もゾンビやヴァンパイア、ピンボール、レンガ壁といったイラストによる例えが出てきて、記憶に残りやすいということを実際に証明してくれています。
まだまだここで紹介しきれていないTips満載のコースですので、興味が出た方は是非ご自分で受けてみることをお勧めします。
MOOC入門としてお勧め
このコース、MOOCに興味はあるけど何から受けようか迷っているというような方にとてもいいんじゃないかと思いました。
理由としては以下の通りです。
- 各週が1時間ぐらいで終えられるぐらい短くまとまっている
- 期間も4週間と短い
- 全ての課題の締め切りがコースの終わりまでとなっており自分のペースで学べる
- 無料での受講でもクイズを受けることができる*1
- 可愛いイラストが豊富で堅苦しさがない
- これからの学びのための土台となってくれる
- 前提知識が一切必要ない
実践してみようと思ったこと
このコースを受けてみて、楽に覚えようとしちゃだめなんだなということを思い知らされました。特に実際には理解できていないのに解ったつもりになる、ということの危険性を意識しなければと思いました。
思い出すことの実践として、勉強の区切りごとにページを閉じて思い出す作業を入れるようにしてみようと思います。
ポモドーロ・テクニックも導入してみたいですが、例えば動画の教材の場合に25分で区切った時にすごくキリの悪いところだった時はどうするべきかなんかを知りたいなと思いました。
最後に
最後に、学んでいる人へ送る言葉として、Dr. Terrance Sejnowskiの言葉を引用したいと思います。
... success isn't necessarily come by being smart. I know a lot of smart people who are not successful. But I know a lot of people, who are very, very passionate. And persistent.
成功は賢さから来るものとは限らない。私は賢いけれども成功していない多くの人々を知っている。その代わり、非常に情熱的で継続的な多くの人々を知っている。
A lot of success in life is that passion and persistence, of really staying the course, staying working on it, and, not letting go. Not giving up. That's really, I think the most important, quality that I see in students, that I work with, who are successful.
人生における成功とは、道から外れることなく努力し続け手放さないという情熱と継続にある。諦めないこと。それが私と共に働いていて成功している学生に見ることのできる最も重要な特徴であると思う。
*1:Courseraのコースにはお金を払わないとクイズを受けられないものも多いそうです